上條 厚子Atsuko Kamijo
ママライフバランス株式会社 代表取締役
2016年より母親向けセミナーを開始し、2018年にオンライン子育て支援を実施する市民団体「ママライフバランス」を設立。後に株式会社化し、2021年より子育て支援事業を提供する中で関わったのべ1万人の現役パパ・ママの悩みをもとにしたプログラム「親のがっこう」を立ち上げた。
セミナーレポート 2022/6/30 公開
はじめて父親・母親になるにあたり、さまざまな戸惑いや不安を抱える人も多いのではないでしょうか。夫婦どちらにとっても「初めての経験」となる出産・子育て。パーソルキャリアでは、夫婦が一緒に子育てのスタートラインに立ち、「初めての経験」に二人で取り組むことが重要だと考えています。
男女共に、出産・育児を通じて家族のあり方、ひいては自分自身のキャリアや働き方を見直す機会にしてもらうため、今回ママバランス株式会社の協力を得て、プレパパ・プレママのための出産準備プログラムを用意しました。
「何となく分かっていた気になっていた出産・育児の現実を知り、心構えができました。事前に知識を得ることで、防げるトラブルがあると感じました」——これは今回のプログラムに参加してくれた、ある一人のプレパパの感想です。
――「このプログラムの内容は、今子育てをしている現役世代のお父さん・お母さん1万人の失敗経験から生まれました。出産前のご夫婦に情報として知っていただくことで、みなさんが同じ落とし穴に落ちることを未然に防げたらと思っています」(上条さん)
プログラムの序盤でまず、上条さんから日本の子育て現場の実態について共有がありました。おそらくみなさんも、どこかで一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
1つ目は、「産後うつ」の症状に悩んだことがある母親の割合について。ある調査では、出産後の女性3人中1人に産後うつの症状があることがわかっています。しかし症状があるにも関わらず、「母親なんだからこれくらい当たり前。がんばらないといけない」と思い込んでしまう、すなわち症状に無自覚なケースが3分の2を占めるといいます。
また最近は女性だけでなく、育児に関わる男性も10人に1人がうつ症状に悩まされているという研究結果もあるそうです。
「出産後、パートナーの様子が少しでもおかしいと感じたら、ぜひ病院の受診を検討してください」と、上条さん。こうした産後うつの実態とリスクについて正しく理解することが、「産後クライシス」と呼ばれる夫婦間の危機を乗り越える一歩になるはずです。
2つ目は、出産後の夫婦間における「愛情」の変化について。こちらも有名な統計データです。下記図が示す通り、出産後、母親が心身ともに不安定な状態である時期に、父親が協力的であったか否かが、女性から男性への愛情が回復するか、低下していくかの分岐点となってしまうというものです。
ひと昔前までの育児本などでは、「子どもが高校生になるまで父親の出番はない」と書かれていることが多かったそうですが、「最新の研究結果をもとにすると、それは誤りです」と上条さんは 言います。
――「出産直後、女性の体内ではホルモンの分泌量が一気に減少します。それによって理性では感情をコントロールできない状態、通称『ガルガル期』とも呼ばれている時期を迎えます。それに加えて生まれて間もない赤ちゃんは、24時間体制でケアしなければなりません。それは人間の生活として普通ではない状態なので、パパの協力が欠かせないのです」(上条さん)
しかし一方的に、「男性が育児に参加すればよい」とは言えない現状もあります。諸外国と比較すると、日本人の男性は圧倒的に労働時間、特に会社で働いている時間が長いという現状があるためです。
女性は出産で、男性も日々の仕事で満身創痍。夫婦間のコミュニケーションはキャッチボールからやがてドッジボール状態に陥り、「なぜ私ばかり」「俺だってやっているのに」というすれ違いから、深刻な溝が生まれてしまう。
この“落とし穴”に落ちないようにするためにも、出産前の大事な時期、夫婦が一緒になって正しい知識を得て、認識をすり合わせておくことが大切です。
さまざまなデータから学んだあと、今回は双子の出産・育児を経験されたご夫妻に協力いただき、夫婦それぞれの「産後のリアル」についてお話を聞きました。参加者のみなさんからも当事者ならではの質問が飛び交い、大盛況のインタビューパートとなりました。
先輩方からお話を聞いた後、夫婦で協力してワークに取り組みました。「夫婦は共同経営者である」という認識のもと、「我が家のビジョン・ミッション・バリューを考えてみよう」というテーマが提示されました。
上条さんは、出産で家族が増えるにあたって、次のような心構えが必要であると話してくれました。
「夫婦だけの状態から子どもが生まれて親になる転換点において、『僕』『私』に加え、『わたしたち』というもう一つの主語が追加されます。『わたしたち』という視点で自分たち家族にとっての幸せについて考え、お互いの共通認識にしていくことが大切です」(上条さん)
「わたしたち」という視点を持つときの注意点は、「同じ船に乗る」のではなく、それぞれ違う船に乗って「同じ方向に進む」と捉えることだといいます。そこで重要となるのが、上記でご紹介したミッション、ビジョン、バリューの3つです。
「今回、夫婦で話し合って言語化し、共有したビジョン、ミッション、バリューは、ぜひ常に目に入りやすい場所に置いておいてください。そして子どもの成長や仕事の変化などに合わせ、1年に1回くらいのペースで見直していただきたいと思います」(上条さん)
「親のがっこう」プログラム1日目を終えて、参加したプレママ・プレパパからさまざまな感想が寄せられました。以下、一部をご紹介いたします。
「パートナーにも育児の大変さがわかってもらえた」「出産に向けて準備しなければいけないという意識をもついい機会になった」(女性)
「妻と共に家庭を築くうえで前提となる考え方を互いに共有できた」「子どもを迎えるにあたって考えなければいけないことが整理できた」「はじめて時間をとって、夫婦で向き合い、考えを共有することができた」(男性)
プログラム1日目は、産後のリスクについての学びがメインテーマとなりましたが、2日目は夫婦が共に幸せな産後、子育て期を迎えるためにできること、役割分担や対話の実践方法などについて具体的に学んでいきます。その模様は後編にてお届けいたします。
上條 厚子Atsuko Kamijo
ママライフバランス株式会社 代表取締役
2016年より母親向けセミナーを開始し、2018年にオンライン子育て支援を実施する市民団体「ママライフバランス」を設立。後に株式会社化し、2021年より子育て支援事業を提供する中で関わったのべ1万人の現役パパ・ママの悩みをもとにしたプログラム「親のがっこう」を立ち上げた。
※掲載している内容・肩書・社員の所属は取材当時のものです。