上条 厚子Atsuko Kamijo
ママライフバランス株式会社 代表取締役
1981年生まれ、愛知県出身。中2、小3の2児の母。夫婦で学ぶ出産準備プログラム「親のがっこう」の運営のほか、名古屋市の子育て支援拠点受託事業や、子育てセミナーの講師として活躍。5年間で延べ1万人の親子をサポート。
セミナーレポート 2022/11/29 公開
パーソルグループでは、DI&E(ダイバーシティ、インクルージョン&イクオリティ)の浸透をめざしています。その一環として、男性の育休取得も推進。2021年10月からは男性社員に1か月以上の育休取得を推奨する取り組みを開始しました。とはいえ、育休取得中にキャリアに遅れをとってしまうのではないか、収入が減るのではないか、と不安に感じている人も多いかもしれません。そんな不安を解消するべく、9月22日に、プレパパを対象にした「親のがっこう プレパパ編」のオンラインセミナーを開催しました。
セミナーの前半は、出産準備プログラム「親のがっこう」を提供する、ママライフバランス株式会社の上条厚子さんをお招きして、出産後の夫婦に訪れる関係性の変化や産後鬱の実態についてご説明いただきました。
まず、プレパパに知ってほしい最初のステップは、産後の女性の心身状態についてです。
「初めて出産した女性の10人中10人が、おむつを替えた、ミルクをあげた、でも赤ちゃんが泣き止まなくて毎晩途方に暮れる、という現実に直面します。1分1秒たりとも気が休まらない状況が続くと、判断能力が低下します。赤ちゃんを守らなければ、と必死になればなるほど、パートナーへの当たりがきつくなってしまうこともあります」(上条さん)
パートナーにきつく当たってしまう問題を、上条さんは「察しろよ、言ってくれよ問題」と命名。心身に余裕がなくなることで、女性側に「言われなくても気づいてほしい」という気持ちが生まれるのです。しかし、男性側からしてみれば「いやいや、言ってくれなきゃ分からないよ」と、思うわけです。
心身を不安定にする大きな原因は、ホルモンです(※)。妊娠期間の約10カ月をかけて増え続けた女性ホルモンが、たった1日の出産で急激に減少します。このホルモンバランスの変化により、女性は理性で感情をコントロールできなくなると言います。
(※)女性ホルモンが、はたらく女性のパフォーマンスに及ぼす影響とは?社内セミナーを開催
https://touch.persol-group.co.jp/20211012_9886/
さらに、産後のママの大変さを説明するために、上条さんは出産直後のタイムテーブルを紹介。
数時間置きの授乳が必要なため、ママたちは小刻みにしか眠れません。心だけでなく、肉体的にも疲労が蓄積していきます。
続いて、上条さんは、2つのアンケート結果を共有しました。2020年に産後の女性1403人を対象に「産後子育てが『辛かった』と感じた時期がありますか?」と質問したところ、実に92.5%の女性が「産後つらかった」と答えています。
実は、メンタルの状態が健全ではない『産後鬱』の状態になる母親の割合は、3人に1人。さらに、そのうちの3分の2が、医師が産後鬱と診断する状態にありながら、本人は無自覚だといいます。『母親だから頑張って当然』という責任感から、頑張るハードルが非常に高くなっているのです。
もう一つは、東レ研究所による調査結果です。最初は同じだけ愛し合っていたふたりが、出産から1年も満たない間に、女性の愛情は過半数を割り、2年を経過すると、34%しかパートナーに愛情を持てなくなってしまうというもの。「産後の過ごし方が、将来にわたり良好な夫婦関係を築けるかどうかの分岐点になる」と上条さん。そこで、パパの出番です。
後半は、パーソルキャリアで実際に育休を取得した男性社員2人に、上条さんがファシリテーターとなり、なぜ育休をとろうと思ったのか、取得してみてどうだったのか、リアルな実態に迫りました。
一人目は、3児のパパ、新見さんです。
新見さん(組織開発部)
3児のパパ。育休取得期間:5カ月。2021年4月に復職
新見 上の子2人の時は、僕が育休をとるという発想がそもそもなく、ほとんど育児に関わりませんでした。3人目はチャンスがあれば関わりたいと思い、育休取得を決めました。時代の変化もあり、ちょうどいいタイミングだったかなと思います。妻は産休のみで育休をとらずに、僕より先に職場復帰したため、僕が一人で子どもと過ごしていました。
新見 やはり、夜中の対応と、赤ちゃんが思い通りにいかないという2点がすごく大変でしたね。生まれて3カ月くらいは、夜中、明け方関係なくずっとミルクやおむつ交換に追われ、それでも泣き止まず理由が分からない、といった状況でした。そんな中で、本当に何気ない会話だったと思いますが、当時の僕にとって家族からの言葉がグサっとくることがあって、そこで糸が切れたような精神状態になってしまいました。その日は会話もせず寝て、次の日も、家でじっとしていることができず、気が付いたら赤ちゃんを連れて外をふらふら歩いていました。バッグもちゃんと持てず、引きずっていた、という記憶が片隅にあります。
新見 妻と3人目の子どものためにとった育休でしたが、結果的に上2人も含めて家族と過ごす時間が増えたことは、めちゃくちゃ良かったと思っています。こういう生き方もいいんだ、仕事より家族を最優先に考えてもいいんだ、とキャリア観、はたらき方に対する考え方が大きく変わるきっかけになりました。実は、育休から復帰して1カ月後に、今度は3カ月間、介護休暇を取ったんです。それも、自分の中で家族を優先する考え方があったから決断できたのだと思っています。
2人目は、本井(もとい)さんです。
本井さん(エージェント事業部RAマネジャー)
1児の父。育休取得期間:3カ月。2021年7月に復職。(※2021年9月インタビュー当時)
本井 男性は仕事、女性は家庭に入るといった古い価値観ではなく、お互いがビジネスキャリアを作っていく共働きスタイルが合っていると夫婦で話し合いました。実は大学時代に育休ジャパンというNPO法人でインターンをしたことがあり、そこで子育てに参加しているパパたちから「子育ては特に出産直後に女性がしんどい」という話を聞いていたので、その大変なタイミングで妻をサポートしたいというのはずっと考えていました。
本井 お互い初めての経験だったので、夫婦でノンストップで対応していました。家事も担当制にして協力し合っていましたが、たまに嫁が発狂する(苦笑)。「育児休暇」と言いますが、休暇じゃなくて修行です。取得前は収入とキャリアに不安がありましたが、収入は8割は保障されます。評価に影響するのでは?という不安は、実際は関係なかったですね。育休を取得すると決めてから休むまでの3カ月は、絶対に何か生み出そうとモチベーション高く仕事することができました。取得前に責任を果たしていれば問題ありません。
本井 改めて、仕事も子育てもめちゃくちゃ楽しいと実感しています。最初は赤ちゃんが泣いている理由が分からなくても、だんだん分かってくると楽しいんです。パートナーと一緒に同じ経験をして、一緒に成長を実感できるのが子育てだと思います。3カ月の休みは長く感じて、早く復帰したいなと思ったこともありましたが、時間があったのでキャリアの棚卸をして、自分のWill、Canや目標を50枚くらい書き出したり、これまで自分がやってきたこと、顧客や組織のことを俯瞰して見られたりするようになりました。育休の経験によってキャリアの棚卸ができたのは自分にとってとてもいい機会になったと感じています。
新見さんも本井さんも、育休を通して、様々な学びがあったようです。子育てはパートナーと共同経営者になること。出産前は「僕」「私」とそれぞれの主語だったのが、出産後は「私たち」という主語が一つ増えることになります。
「イメージとしては、家族が一つの船に一緒に乗るのではなく、それぞれの船で、一緒に同じ目的地に向かうこと。同じ方向を向き、何のために家族でいるのかを共有することで、パートナーと素敵な共同チームを作っていくことができます」と、上条さんはプレパパたちにエールを送りました。
このセミナー受講後、後日、夫婦で親のがっこうの授業を受講した女性社員は、「セミナー前も、育児は一人では大変かもしれないとは思いながらも自分だけが育休を取って、何とか頑張ればいいと思っていました。でも、具体的にどんなことが起こるのかを知ってみると、自分一人だけでは大変すぎるかもしれないと、男性育休の必要性への感じ方が変わりました。受講後に、夫婦で話をして、夫にも育休を取得してもらうことにしました」と話していました。
パーソルキャリアでは、今後も継続してこうしたセミナーを実施し、男性育休を取ることの意義を伝えるとともに、夫婦で話し合いをして、家族でキャリアや生き方を考えてもらう機会を提供していきます。
上条 厚子Atsuko Kamijo
ママライフバランス株式会社 代表取締役
1981年生まれ、愛知県出身。中2、小3の2児の母。夫婦で学ぶ出産準備プログラム「親のがっこう」の運営のほか、名古屋市の子育て支援拠点受託事業や、子育てセミナーの講師として活躍。5年間で延べ1万人の親子をサポート。
※掲載している内容・肩書・社員の所属は取材当時のものです。