『笑顔』のその先を見据えて
真に求められるサービスを大事にしたい

取締役執行役員 石井 義庸

母の病室にいた一人の女性が転機をくれた

パーソルキャリアが掲げる「人々に『はたらく』を自分のものにする力を」というミッションの解像度を上げて表現すると「キャリアオーナーシップ」という言葉になるのだと理解し、この単語を初めて聞いたとき、スマートな表現だなと感じました(笑)。また自分の「はたらく」を自分で決めることが、キャリアを形成するうえでとても大切なことなんだと改めて感じました。

私は20代後半のころのある出来事から、「キャリアオーナーシップ」を持つ転機がありました。
当時、母が重い病気を患い、緩和ケアを行うホスピス病棟に入院していました。母の病室は相部屋で、そこには、金物店を営んでいる高齢の女性がおり、その女性が「自分が退院後にしたいこと」を、とても明るい様子で話すのです。

「緩和ケア」「ホスピス病棟」とは、要は余命わずかな終末期医療の段階なのですが、そこにいる女性が、目を輝かせながら大好きな仕事のことを、成しえたい夢として話してくれるなんて。当時、私は住宅メーカーに勤めており、愚痴ばかりが出てくる日々だったのですが、はたらくことを夢見る女性の姿を見て、自分のはたらくことへの姿勢が恥ずかしくなってしまいました。同時に、はたらくことへの思いが強いことが生きるうえでのモチベーションになることが分かった瞬間でもあります。

このままじゃ、自分はダメだ。そう思い、新しい環境でゼロからスタートできる会社に、と転職活動を始めた私。そうして入社したのが、派遣事業を主軸に展開するテンプスタッフ株式会社(現パーソルテンプスタッフ株式会社)です。

キャリア形成に雇用形態は関係ない

「はたらくを楽しむ」と「キャリア選択の自由」が隣り合わせだと感じた私は、「育成型無期雇用派遣 funtable(ファンタブル)」というサービスを立ち上げました。サービス名の由来は、Fun(楽しむ)×T(テンプ)×able(可能にする)です。

このサービスの理念は『共存共栄』。パーソルテンプスタッフと個人の方が無期雇用契約を結び、派遣スタッフとして就業先企業ではたらく雇用形態です。将来的に就業先での社員登用を目指す方のために、当社でキャリア支援などのスキルアップサポートを行い、企業には職場での育成・教育をサポートしていただく。まさに三位一体となって、理想のキャリアを実現するためのサポートをしようというものです。
ですから、スタッフにとっては未経験の職種にチャレンジしやすく、企業にとっては、スキル以外のマッチングをしっかりと見ることができ、社員として登用された後の長期就業につながるという利点があります。

正直に申し上げると、このサービスは個人にとっても企業にとっても、そしてテンプスタッフにとっても、成果が見えるまでに時間がかかります。しかし、中長期的な目で見れば、真の顧客ニーズに応えられる。「funtable」を通じて、雇用形態にかかわらず、はたらく個人が望む「はたらく」を提供できる。これは、「人々に『はたらく』を自分のものにする力を」というミッションにもつながると考えています。

現に、「funtable」を利用してくださった方から、アンケートでこんな言葉をいただきました。「正社員じゃない自分が、雇用契約を結んでくださる企業にどのような価値を提供できているのか、不安がありました。でも、スキルアップを経た現在では、こんな風に企業や社会に貢献できている、という自信が持てるようになりました」と。
自分たちの目指していた価値提供の方向性は間違っていなかったんだと、自信を与えてもらった瞬間でした。

はたらくことの喜びを見つけてほしい

これまで、サービスを立ち上げる際には、短期的な目線だけで物事を考えないようにしてきました。つまり、目先の定量成果がすべてではなく、サービスを利用いただいたその先に、顧客にどのような価値を感じていただけるか。ここをしっかりと考え込むこと。そんなサービスを作り上げていくことで、顧客との長いお付き合いができる関係性が構築され、そこにこそ人々の本当の笑顔が存在するのだと、常に考えています。

というのも、人材派遣の領域は、リーマン・ショックや東日本大震災の際に社会から大きな批判を受けました。世の中に必要とされる、価値のあるサービスを提供しない限りは生き残れない…それを肌で感じてきたからこそ、誠実さと期待値を超える価値を兼ね備えなければならないと感じています。同時に、利用される方にとっては、良き理解者でなければならないとも。これは、人材派遣の領域にとどまらず、全「はたらく」領域で必要な考え方だと思っています。

「はたらく」というのは、衣食住と同様に大事なものだと思うのです。それだけ、費やす時間が長い。だからこそ、人生をより有意義なものにするには、冒頭でお話しした金物店の女性のように、はたらくに価値(喜び)を見いだせたほうが幸せなのだと。一人でも多くの人が雇用形態に関係なく、キャリアの意思決定をできる社会を育むために、私に何ができるか、考える日々です。

  • 掲載している内容・肩書・社員の所属は取材当時のものです。