サーパス石原社長

ミッション推進

「ホルモンによるマイナスの作用を取り除く」
低用量ピルの服薬支援を制度化したSurpassの取り組み

月経や女性特有の疾病によるパフォーマンス低下や、不妊治療と仕事の両立の難しさによる離職など、“女性の健康”と“仕事”は密接に関係している。本連載では、はたらく女性の健康をサポートしている企業の取り組みを紹介。女性がキャリアをあきらめず活躍していく世の中を目指すために、いま必要なアクションを模索していく。

「女性活躍という言葉が消える日を目指して」をビジョンに掲げ、女性によるBtoB特化型の営業代行・アウトソーシングを行う「株式会社Surpass(サーパス)」。女性の管理職比率80%を誇る同社は、2020年に低用量ピルの服薬支援を福利厚生として取り入れた。

低用量ピルの薬代や診察代を会社が補助する制度や医師によるオンライン診察サービス「スマルナ for Biz」(株式会社ネクイノ)の導入など、多角的な支援を決断した背景や導入後の社内の変化について、代表取締役社長の石原亮子氏に聞いた。

石原社長プロフィール写真

石原 亮子 氏

株式会社 Surpass 代表取締役社長
短大卒業後、大手生命保険会社でトップセールスとして活躍。その後、一部上場企業からベンチャー企業の立ち上げまで100業種以上の営業実績を持つ。2008年8月 株式会社Surpassを創業。

ホルモンの影響で「自分が自分でなくなる感覚」に

低用量ピルの服薬支援の制度を導入したきっかけのひとつに、石原氏が20代後半を迎えたころから感じ始めたPMS(月経前症候群)による不調がある。2008年にSurpassを創業し、これから会社を成長させていこうというタイミングだった。

石原氏: 1カ月のうちの半分くらい体調不良に悩まされるようになりました。思考や体調がホルモンに支配されているような、自分が自分でなくなる感覚というのでしょうか。生理前の時期にひどくなり、生理が来ると元に戻ることを繰り返していました。次第に、生理前に大きな意思決定を下すのがこわいと思うようになったのです。

海外生活経験者や外資系企業の勤務経験者を含めた複数の女性経営者で集まったとき、石原氏はPMSの話題を出したという。

石原氏: 「みんなはPMSのときはどうやって対処しているの?」「生理前は意思決定するのが難しいよね」と話したのですが、共感する女性経営者はいませんでした。
というのも、その場にいたメンバーは当たり前のように低用量ピルを服用していたからです。彼女たちはピルの効果でホルモンの影響を受けずに働けているんだと知りました。

友人たちが低用量ピルを活用してパフォーマンスを維持しながら働いている様子を知った同時期に、新型コロナの感染が拡大し始めていた。

石原氏: 2020年の新型コロナの感染拡大により世界が混乱に陥る中、各国のリーダーが国民に向けた声明を出していました。その中で私の心に響くメッセージを残していたのは、女性のリーダーたちでした。

それを見て、石原氏は1つの仮説に至ったという。それは「国内外を問わず、優秀な女性リーダーたちは当たり前に低用量ピルを服用して体調をコントロールしているのではないか」というものだった。
実は、石原氏自身も過去にピルを服用した経験があったが、当時は副作用がひどく継続できなかった。しかし、ピルの改良が進み副作用が軽くなっていることも受け、低用量ピルを再度服用することを決意。

石原氏: 以前より副作用が軽く、続けられるようになっただけでなく、精神的な面でも安定しました。これはほかの女性にも良い効果があるのではないかと考えました。

また、女性特有の健康の悩みをテクノロジーで解決する「フェムテック」が世間で注目されるようなり、同社も女性が抱える問題を解決できる方法として「低用量ピルの会社費用負担」を考えるようになったという。

女性パートナーのいる男性社員にも制度を適用

低用量ピルは、一定期間のみ続けることで、月経困難症の治療や生理痛、PMSの改善に効果があるといわれている。国連が発行した「方法別避妊法 2019:データブックレット」によると、日本のピル普及率は2.9%。同資料によると世界平均は8.0%であり、日本のピル普及率の低さがうかがえる。

女性のヘルスケアに関するソリューションの中で、石原氏が低用量ピルの服薬支援を制度として導入しようと考えたのはなぜなのか。

石原氏: 日本で低用量ピルが浸透しているとは言い難いですが、世界を見渡した場合、ピルはアップデートされ続け、しっかりとした症例研究もあるトラディショナルな方法だからです。
女性の場合、PMSや生理が欠勤や仕事のパフォーマンス低下につながってしまうことを私は身をもって経験しました。それが低用量ピルで改善されたとしても、ただ勧めるだけでは若い社員には響かないかもしれません。
それなら、福利厚生として取り入れ、会社が正しい知識を持って推奨しているものであれば、今まで低用量ピルを利用したことがない社員も検討しやすいと思いました。ホルモンによるマイナスの作用を会社として取り除くことは、女性が主役である弊社としての役割でもあります。

さらに、低用量ピルの服薬支援を導入する企業として、国内で見本となるパターンを作りたいという思いがあった石原氏は、制度の導入にあたり2つの施策を講じた。

石原氏: 1つ目は福利厚生として低用量ピルを導入するには、社員に安心して服用してもらう必要がありました。そこで、情報を産婦人科医や専門家から正しく伝えてもらう説明会を開催しました。
もう1つは、女性パートナーがいる男性社員にも適用することにしました。これは、社内に女性パートナーのPMSによる不調の影響を受けている男性社員がいたからです。

低用量ピルの処方を希望する場合は医師のオンライン診察を受け、その後の方針が決められる。診察で服薬リスクが高いと判断されれば処方されない可能性もあり、医師からの指示を元に安全に利用することが可能となった。

オンライン診察と低用量ピル代の補助で社員の負担が軽減

制度化から2年、利用率も徐々に増えているという。実際に制度を活用している2人の社員に話を聞いた。
Aさんは、学生のころからPMSと生理痛による頭痛や腹痛、吐き気、精神的な落ち込みなどの症状があったという。

Aさん: 「スマルナ for Biz」オンライン診察のサービスのことは以前から気になっていたので、制度が導入されてすぐに申請をしました。月々の低用量ピル代と診察代を合わせると数千円になります。毎月の出費となると大きくなるので、これを会社が負担してくれるのは助かります。出費が気になるから服用に踏み切れない女性もいると思いますので、そういった方への後押しにもなるのでは…と思います。

会社については、「女性活躍の推進をモットーとして掲げ、実際に行動に移している。言動と行動が一貫していると感じた」と話す。

 

Bさんは、立ち仕事の多かった前職のころからピルを服用していたという。

Bさん: 前の職場にいたとき、経血量の多さやひどい生理痛で病院に行ったところ、子宮内膜症と診断されました。低用量ピルを飲み始めたのは、子宮内膜症の手術後の治療の一環でした。しかし低用量ピルの処方は診察が必要なため、移動時間も含めてスケジュールを確保しなければなりませんでした。
Surpassに入社して福利厚生でオンライン診療を利用できるようになり、直接病院に出向く必要がなくなりました。スケジュール的にも気持ちの面でも余裕が生まれ、生理に振り回されることなく仕事に集中できるのでありがたいです。

体の悩みを誰かと共有できる社員が増えた

段階を踏みながら制度を導入したことで、社内にある変化が現れたという。

石原氏: 説明会を開催してから制度を導入したことで、生理周期や子宮の病気の可能性など女性社員が自身の体について知ることができ、ヘルスケアへの関心が高まったと感じます。 また、女性特有の悩みを一人で抱え込まず、同僚と話す機会が増えたようです。そういう意味では一定の効果を得られたと感じます。
1名ですが、男性社員も制度を利用しています。低用量ピルを服用し始めてからパートナーのPMSが目に見えてよくなったそうです。「男性社員には、パートナーのことも含めてあなたの人生。私たちがそこをサポートすることも一緒に働くことである」というメッセージになればいいですね。

実際に制度を使う・使わないにかかわらず、低用量ピル服薬支援制度があること自体が社員の心理的安全性につながると石原氏。

石原氏: 「会社が社員のウェルビーイングまで考えている」というメッセージになったのではないかと考えています。
弊社は、女性活躍という言葉が不要になる社会を目指しています。そこを目指すためにSurpassという組織を作る過程は、いかに早く目標にたどり着くかの実験だと考えています。「スマルナ for Biz」を提供しているネクイノさんに協力していただきながら社員の仕事の効率にどう影響するかの調査を実施し、低用量ピルの服薬支援を継続し、検証したいと思っています。まずは、弊社の社員の体調が少しでも改善され、働きやすさにつながればいいですね

「さまざまな企業で女性が活躍し、意思決定しやすくなるために『目に見えて実績が分かる状態』を作るのが目標」というSurpassの取り組みは、会社の枠組みを超えた社会への問題提起でもある。「女性活躍という言葉が消える日」まで、石原氏のチャレンジは続く。

※掲載している内容・肩書・社員の所属は取材当時のものです。

 

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