ジャパネット永溪様

ミッション推進

はたらく女性に選択肢を。
ジャパネット、「卵子凍結」最大40万円の補助。

女性特有の疾病や月経による仕事のパフォーマンス低下や、不妊治療と仕事の両立の難しさによる離職など、“女性の健康”と“仕事”は密接に関係している。本連載では、はたらく女性の健康をサポートしている企業の取り組みを紹介。女性がキャリアをあきらめず活躍していく世の中を目指すために、いま必要なアクションを模索していく。

通信販売事業とスポーツ・地域創生事業を展開するジャパネットグループ。「従業員とその家族のためになること」を積極的に福利厚生に取り入れてきた同社は、2022年9月から卵子凍結費用の補助を福利厚生として導入した。

女性の妊活支援におけるアプローチが複数ある中で「卵子凍結」という選択をした理由や導入の経緯を執行役員の永溪幸子(ながたに・さちこ)氏に聞いた。

永渓さまプロフィール写真

永溪 幸子 氏

株式会社ジャパネットホールディングス 執行役員
2003年にジャパネットたかたへ入社後、コールセンター、社長室、媒体営業などを担当する。新規事業戦略、ペーパーメディア企画制作部門の責任者を経て、2017年にジャパネットたかたのメディア企画・制作部門の執行役員に就任。2020年にジャパネットホールディングス執行役員に就任し、現在に至る。

「女性のはたらき方に選択肢を」との想いから卵子凍結の費用補助に

ジャパネットホールディングスが導入したのは、健康な女性が将来の妊娠に備えて未受精卵を凍結する「卵子凍結」にかかる費用の補助。株式会社グレイスグループが運営する選択的卵子凍結サービス「Grace Bank(グレイスバンク)」を利用したものだ。

「Grace Bank」の卵子凍結サービスには、「初診・診察費用」「検査・排卵誘発剤にかかる費用」「採卵費用」「凍結費用」などがかかる(※)。この中で、検査から採卵までにかかる費用を会社が最大40万円まで助成する仕組みだ。

永溪氏: 当社は「託児所の設置」や「出生祝い金」など、従業員の家族まで大切にする取り組みを実施しています。ただ、これらはすでに家族がいる従業員のみが利用できる制度であり、将来的に子どもを望む従業員に向けた取り組みがないことが課題でした。

企業が取り組む妊活支援には、不妊治療の費用補助や妊活休暇などさまざまなアプローチがある。その中で卵子凍結費用の補助を選択した理由は2つ。

1つは、2022年4月から人工授精などの「一般不妊治療』や体外受精、顕微授精などの「生殖補助医療』の保険適用が決まったこと。国と同様の支援をするより、国がフォローしきれない部分を制度化するべきと考えたことから、卵子凍結費用補助が選択肢に挙がった。

もう1つは、卵子凍結と「世の中にある本当に良いモノを『見つけて・磨いて・伝える』」という同社の理念がフィットしたことだ。

卵子凍結は女性のはたらき方の選択肢を増やせる可能性があるものの、国内で補助制度を導入している企業は限られている。ほかの企業がやっていないからこそ、同社がやる意義があったのだろう。

永溪氏: まずは、社長の髙田旭人をはじめ、私たち制度設計を担当するチームが卵子凍結に社として取り組むことへの理解を深め、良さを実感することから始めました。その上で、卵子凍結費用の補助を導入し、使いやすい制度に磨き上げ、卵子凍結という選択肢があることを世の中に伝えることが、私たちにできる社会貢献だと思ったのです。

医師による社内説明会を実施。制度対象者だけでなく、管理職にも正しい知識を

制度を導入するにあたり、従業員に卵子凍結の正しい知識を伝え、理解を深めてもらう必要がある。そう考えた永溪氏は、グレイスグループの協力を得て、社内で医師による説明会を実施した。

永溪氏: この制度は、従業員に妊娠や出産を推奨するものではありません。利用するかどうかも従業員に選択してもらうことが前提です。とはいえ、若いうちは、将来の妊娠や出産について考えるきっかけがあまりないのも事実。卵子凍結という言葉自体は知っているものの、その詳細まで把握している従業員はほとんどいません。それは管理職も同じです。

正しい知識を得て判断材料にしてもらえればと思い、年齢を重ねるにつれ、妊娠の確率が減少するといった客観的な事実や卵子凍結の必要性などを説明してもらいました。

説明会には、対象となる女性従業員だけでなく、管理職も参加した。制度の運用には社内の協力体制を構築する必要があるからだ。その効果は、参加した従業員の声から感じることができるという。

永溪氏: 20代の従業員から「自分のライフプランを考える、いいきっかけになった」という感想を伝えられました。管理者からは、「卵子凍結には、通院が必要だと知った。部下から相談が来たときは寄り添って対応していきたい」という前向きな意見が多かったです。

制度の導入にあたり、永溪氏がもっとも悩んだのが制度の対象範囲の設定だった。専門家の意見を聞きながら慎重に議論し、「Grace Bank」の上限年齢である“40歳までの女性従業員”とした。一部入社年数の規定はあるものの、要件を満たしていれば、雇用形態や既婚・未婚に関係なく制度を利用できる形で着地した。

妊活経験を共有する先輩社員も。長年培われてきた組織風土が制度を後押し

こうしてスタートした卵子凍結費用の補助制度。一部の従業員が優遇される制度にもかかわらず、社内から不満の声はあがらなかったという。

永溪氏: むしろ好意的な意見のほうが多かったです。制度の対象年齢を過ぎていた従業員から『自分が不妊治療で大変な思いをしたから、会社が制度化して従業員をサポートしてくれるのはありがたい』と言ってもらえました。また、研修の場で自身の不妊治療の経験談を伝えてくれた従業員もいて、経験者としての立場から肯定的なスタンスを表明してくれて、とてもうれしかったです。

「アットホームな風土が醸成されている」と永溪氏。長年培ってきた組織風土が、今回の全社的な協力体制につながっているのだろう。

制度は導入がゴールではない。とくに卵子凍結の場合、将来的に従業員が妊娠・出産を経験してもはたらき続けることができる土壌があるかどうかも重要だ。

永溪氏: 弊社の場合、産前・産後休業や育児休業を取得した従業員は、ご家族の転勤などの事情がない限り、ほぼみなさん復帰しています。時短勤務をしながら管理職として活躍する女性も多いです。

また、育児休業に関するパンフレットや動画を作成するなど、男性・女性にかかわらず従業員の支援を行っています。そういう意味では、弊社には子育てをしながら活躍し続けることが可能な環境が整っていると考えています。

社内説明会のアンケートでは、多くの従業員が制度利用について興味があると回答しており、導入から3カ月で申し込みがあったのは3人(うち実際に凍結完了した従業員は1人)。「この制度が、利用者のライフプランを考える一助になれたことがうれしい」と語る永溪氏に今後の目標を聞いた。

永溪氏: 導入したばかりということもあり、まずは制度を正しく運用することを考えています。利用者が増えるにつれ、改善点や要望などが出たら、その都度ブラッシュアップしていく予定です。また、毎年新入社員も入ってくるので、妊娠や卵子凍結の正しい知識を共有し続けることが重要だと考えます。

現在は卵子凍結費用の補助という方法で従業員をフォローしていますが、国が同様の支援を始めたら、弊社のアプローチも変化するでしょう。今ある制度をかたくなに続けるより、状況に応じて柔軟に対応していければと思っています。

「従業員とその家族のためになること」「世の中にある本当に良いモノを『見つけて・磨いて・伝える』」。アプローチが変わっても、この2つの柱は変わらない。本質を捉えた制度を構築する同社にとって、卵子凍結費用の補助はほんの始まりに過ぎないのかもしれない。

※掲載している内容・肩書・社員の所属は取材当時のものです。

 

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